トカラ海道をゆく 宝島編 ~薩南、トカラでダイビング~

~Prologue~

トカラ列島は歴史、自然、黒潮を巡る冒険というDiscovery Cruise3大要素を完璧に備えた日本の秘境だ。
来年はいよいよ、この長~い島々を全て巡って潜ろう!
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という7日間のロングクルーズ(4月)と枕崎ー奄美の往復クルーズ(11月)を企画している。
シーズン2020スケジュール

ツアーガイドとして海だけでなく、歴史的背景や自然、風俗を紹介するのも僕の役割l。
そこで、来年のクルーズの下準備として未踏の島、悪石島と宝島を探るべく、僕は久しぶりにフェリーとしまに乗り込んだのであった。


「さあいこう 夢に見た島へと♫」

覚えていますか。
アニメ「宝島」。
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ジム・ホーキンズの冒険に胸踊らした月曜日の夕方。
って言ってたら日曜日の夜だろ!ってツッコミがきそうだけど、僕の故郷大分は民放2局(当時)しかなかったので一日遅れで放送されていたみたい(笑)

原作はスチーブンソンの小説、宝島。
モデルとなった実在の海賊の一人が、キャプテンキッド。
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連邦裁判で死刑宣告を受けた彼は
「俺が奪ってきた財宝は何処かって?南の島にぜーんぶ隠してきたさ。」
なんて証言したからさあ大変。
伝説の「宝島」を探す探検家達がキッドの宝の地図を片手に世界中の海へと繰り出した。

そしてその宝島はここだ、と言われている島が日本にある。
それが今回の舞台、トカラ列島の「宝島」だ。
島内には、海賊キャプテンキッドが財宝を隠したと伝えられている鍾乳洞もあり、国内外から多くの探検家や賞金稼ぎが訪れたといわれている。

さてこのお話、何かに似ている。
そう、、僕の大好きなあの漫画、、、、

ロジャー
「おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやるぜ… 探してみろ この世のすべてをそこに置いてきた」

おっと、話がそれそうだ。
鹿児島を出港して12時間ちょい、さあ、宝島に上陸だ!


<宝島MEMO>
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トカラ列島最南端の有人島。
周囲13kmちょい、人口は約130人。
上から見るととハート型に見える。
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鹿児島港から336km、奄美からは90km。
ここまで来るともう奄美の方がはるかに近い。
トカラでは珍しく周囲を造礁サンゴで囲まれ、美しい白い砂浜もある。
トカラハブと呼ばれるハブが生息している。
縄文、弥生時代の遺跡が多数出土し、古くから人が住んでいたようだ。

江戸時代後期にはイギリスの捕鯨船(という名の大砲など強力な武器を装備した立派な海賊船)が来島。
70名の海賊が島に上陸して牛3頭を略奪するなどの暴挙に出た。
これを迎え撃ったのは在番所にいた数人の役人と、流人として島に暮らしていた2名の武士、本田助之丞と田尻後藤兵衛だ。
彼らは降り注ぐ大砲の弾をやり過ごし、敵を引き付けて奇襲をかけ海賊の頭目の一人を射殺。
見事海賊を追い払うことに成功している。

余談だが奄美やトカラ列島には多くの流人がいたようだ。
流人というと荒くれ犯罪者のイメージだが、江戸時代の薩摩藩では政争や藩主の癇癪などですぐ流罪にされる、という慣例があり、流人の多くは身分の高い武士だったようだ。
人格も教養も優れていたであろう流人を島の人は日頃から敬い、助言など求めていただろうし、彼らの持ち込む最新の知見は島の暮らしに大きな影響を与えたのでは?とも想像できる。
島の文化や風習にも影響しているのではないだろうか?
本田助之丞は事の顛末を仔細に記録しており、これを元に作家の吉村昭さんが短編小説「牛」を執筆しているので興味ある方は是非ご一読ください。


「冒険者DNA」
トカラ列島の各島の港にはウェルカムボードならぬウェルカム壁画がある。
大体シンプルに、よーこそ〇〇島へ、という文字と島を象徴するちょっとしたイラスト、というパターンが多いのだがこの島の壁画は違う。

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まず、でかい!
これはもはや島の一部だ。
港に入る前から圧倒的な存在感で迎えてくれる。
ものすごい労力をかけてこの巨大なウェルカム壁画をつくったのだろう。

そして壁画のタイトルは「サブマリンシティ」。

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そこに描かれているのは架空の水中都市に集まる架空の生物たち。
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「よーこそ宝島へ」、などと言った当たり前な文言は一切ない。
島を訪れる人を迎える壁画を作ろう、って話になった時、普通は「ようこそ〇〇島へ」ってなると思う。
けどこの島の住人は違う。

港から集落に向かう坂の途中まで続くこの巨大壁画を通じて、島を訪れる人に強烈なメッセージを発信している。

「この島には夢がある。」

島に上陸した受動的な観光客は、このメッセージによって能動的な旅人に変化する。
そう、宝島に上陸したかつての冒険者のように。

こんな島だから旅人に対しても実にオープンだ。
離島でよく感じる、自分たちには自分たちのルールがありますけん、よそ者にはわからんと思うけど、、、
という閉鎖感をほとんど感じない。
いちいち誰かにものを尋ねなくても必要な情報はきちんとわかるようになっているし、さして重要で無い事は常識の範囲でやってくれればいいよ、っていう自由な雰囲気もある。
かと言って、無関心な訳でもなく、道ゆく島民の方は皆にこやかな笑顔で挨拶してくれるし、話しかければフランクに答えてくれる。

過干渉でもなく、無関心でもなく、まあ、好きなように楽しんでいいんだよという、とても心地よい寛容な空気感。

あれもダメ、これもダメ、ここは気をつけて、はい勝手に使っちゃダメ~、使ったらちゃんと戻して、わかんないことあったら確認してよね、、、
ある程度共有できる常識と道徳があれば全く不要なはずの瑣末な注意書きやよくわかんないルールや、いちいち誰かに聞かないと何もわかんない不便さといったありとあらゆる不信コストが、この島では不要だ。

能動的で自由で好奇心が強くて寛容な精神を持つ、、、
この島は冒険者のDNAであふれている。
そして僕はそれをものすごく居心地が良いと感じる。
まあいちいち確認しないと不安な人にとってはちょっと居心地が悪いんだろうけど、、、


「冒険者の島を歩く」
さて、そろそろ宝探しに出かけようか。
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港は島の北側にあり、ここがフェリーの発着場所だ。
島の東にも一つ避難港がある。

集落は港から少し坂を登ったっところに集中している。
他の島と違って若い方や子供が多い。

集落を歩いて感じるのは、本当にこの島は、いろんなことがちゃんとしてるってこと。

まず島の商店が時間通りきちんと営業している。
品揃えも申し分ない。
いやホント、他の島だといつ開いていつ閉まるかなんて誰もわかんないから。
それだけでも驚きなのに、なんと、、、クレジットカードも使えるのだ!!!
これは本当に便利。
この事実だけでも旅人のことをちゃんと考えてくれているのがわかる。

港、道路、海水浴場などの観光インフラは整備されているし、温泉、民宿、集落もとても綺麗に手入れされている。
観光案内板も実にわかりやすいし、何度も言いますが島の方はとてもフレンドリーで親切です。
トカラ列島で一番洗礼されている、と言っても過言ではないかもしれません。

集落から東に坂を下るとトカラ列島では珍しい白い砂の穏やかなビーチがある。
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トイレシャワー完備のコテージもあり自由に使える。

濃紺というより黒に近いトカラ列島の島々と違い、宝島、小宝島の海は沖縄のようなエメラルドグリーンに近いサンゴ礁の海の色だ。
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島の北西部にある女神山は,聖地として木々の伐採が厳しく禁じられ、山麓部から山頂部にかけてタブノキ,ビロウ,ウバメガシ林という森林の変化が良く保存されており,国の天然記念物に指定されている。
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美しい海岸線を見ながら少し下るとキャプテンキッドの宝が隠されている、と言われる鍾乳洞に着く。
マムシに注意だって、、、ちょっと怖いね(笑)

そしてDiscovery Cruiseのお約束、島の温泉も当然ある。
集落内の友の花温泉センターは週に3日営業。
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赤茶色の高濃度塩化物泉で、加温されているが少しぬるめでゆっくり浸かれる。
旅の疲れが湯船に溶けていく。

「海賊王とその仲間」

さて、風呂上がりのビールでも買いに、と再び島の売店に向かうと、探索前に視察で訪ねた民宿のご主人が声をかけてくれた。

「暇なら飲みにおいでよ〜」
そういうなりキックボードで颯爽と坂を降りて行った。
おしゃれで、かっこよくて、そして実にさりげない。

もちろんお言葉に甘えた。

満室で忙しいのだろうけどそんなこと御構い無し、と行った感じで刺身を切ってくれた。
サワラ、続いてキハダマグロ。
「ビール?焼酎?まあ好きなの飲んで。」

自由だ。

テーブルの脇にはコーヒー豆が並んでいる。
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見てこの種類。
好みに合わせて選べるコーヒー豆!
おもてなしの心が溢れているでしょ。

実は宝島の宿は最初から絶対ここにお願いしたいと思っていた。
(今回はこの島も大規模港湾工事中で民宿はどこも空いてなかったんだけど、、、)

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だってご主人は民宿と、島で唯一のダイビングショップも経営されている方だから。
そう、宝島にはダイビングサービスもあるのだ。
そして、この方こそ、一度お話を伺いたいと思っていたトカラのレジェンドダイバーの一人で、トカラダイビング界伝説の海賊王の仲間でもある。

少しの間だったけど、本当に楽しい時間だった。
話に夢中になった僕は写真を撮るも忘れてた。(笑)

でもいいんです。
4月も11月も宝島の宿はここで決まり。
次はたっぷり時間もあるから、またゆっくり話したいな。

そう、その時はみんなも一緒に飲みながらね。

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「明日フェリーの時間早いからさ(上り便は5時発)、この車使って港まで行ったらいいよ。遅れたら大変だからね。港に乗り捨てていいから。はい、これ鍵。」

海賊王の仲間は本当に優しかった。

〜続く〜

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黒潮ガイド 木村尚之
薩南&トカラDiscovery Cruise

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